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トピックス 木質バイオマス利用をめぐる現状と課題

1 FITによるバイオマス発電の拡大

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FITが2012年7月に開始されて、4年近くが経過した【*1】。バイオマス発電の認定および稼動は大幅に増加し、2015年末時点で認定件数は328件、認定容量は286万kW、稼動件数は合計137件、稼動容量は47万kWである。(下表)。

また、計画段階を入れると、公表・報道されている事業は150件以上にのぼる(表2参照)。

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表1:FITにおけるバイオマス発電稼働・認定状況

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出所:経済産業省HP【*2】

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バイオマスは他の再生可能エネルギーと異なり、発電するための燃料を必要とする。メタン発酵、リサイクル木材、廃棄物発電は、廃棄物の有効活用であり、他産業や社会への影響は比較的少ないと考えられる【*3】。一方、未利用木質および一般木質発電は、建材、合板、家具、紙、熱利用など様々な利用がされ、また森林という地域や地球環境にとって重要な生態系の構成要素である木材を燃料とすることから、経済的・社会的・環境的に適切な利用への配慮が必要となる。

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経済産業省が2016年3月に公表した「持続可能なバイオマス発電のあり方に関わる調査報告書【*4】」によると、FIT認定された発電所の原料予定量は、下図のとおりである。

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図:FIT認定されたバイオマス発電所の原料利用予定量(2015年7月末時点)

図:FIT認定されたバイオマス発電所の原料利用予定量(2015年7月末時点)

出所:持続可能なバイオマス発電のあり方に関わる調査報告書

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原料予定量合計1,365万tのうち、チップ、ペレット等の海外からの輸入が417万t、アブラヤシ核殻(PKS)が334万tと半分以上になっている。このうちPKSは、現地での未利用分が300万t程度と見られ、生産国であるインドネシア、マレーシアにおいても今後多数のバイオマス発電が計画されており、日本に300万t以上が安定供給されるかどうか疑問がある。また、一般木質(国内)が221万tとなっているが、製材端材の未利用分は40万t程度と推定されており、製紙用など既存用途との競合も懸念される。

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表2:発表・報道された主な木質バイオマス発電事業および計画

* 規模の単位は、kW。黄色部分は稼働。
* PKS:オイルパーム(アブラヤシ)の残さであるパームヤシ殻。
* この他にもFIT認定事業など多数ある。

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経産省資料、事業体HP、報道資料等により、
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成(2016年3月末)

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2. FITにおける木質バイオマス発電の課題と取り組み

FIT開始以前から、FIT制度の木質バイオマス発電には多くの課題があることが指摘されてきた【*5】が、それが徐々に顕在化しつつある。

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課題1:多すぎるFIT認定と短期間に大量の木質バイオマス需要の創出

直近の最大の課題は、数年という短い期間に、数百万〜数千万㎥という膨大な木質バイオマス需要が生まれたことである。国内の木材の賦存量は膨大だが、搬出するしくみが整備されておらず、林業全体のバランスもあり、短期間に供給できる量は限られる【*6】

未利用木質バイオマス発電についても当初、資源調達が懸念される案件を含む計画および認定が各地で相次いだため、林野庁が木質バイオマス発電事業者に対し、都道府県林務担当部局等との事前説明やヒアリングを実施するようになり、無法図な計画・認定に一定の歯止めをかけている【*7】。だが、一般木質バイオマス発電においては、こうした調整が行われていない。

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課題2:規模別価格でない買取価格

バイオマス発電、特に直接燃焼においては、規模拡大によって発電コストが下がる傾向にある。だが、現在のFIT制度では一般木質バイオマスの電力買取価格は、規模別となっていない。これは、過大な国民負担やカスケード利用を損ねかねないおそれがある。規模が大きい(特に石炭混焼)ほど発電コストを低くできるため、大規模な事業が計画される傾向があるが、実際の事業においては、安定的な資源調達の困難さも増す。そのため、例えば2万kW以上といった、規模別の価格区分が早急に設定されることが望まれる。

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課題3:未利用材

①5,000kW規模の事業リスク

未利用材で5,000kW規模の木質バイオマス発電では、年間約10万㎥のバイオマスを必要とするが、これは千葉県や富山県の年間木材生産量を上回る膨大な量であり、安定的に資源を調達できる地域は限られる。5,000kW規模では、発電効率は20%台に留まり、規模が大きいため熱利用が困難で総合効率は低い。また、IRR(内部収益率)が低く、燃料価格変動等による事業リスクが高いことが指摘される【*8】

②追いつかない木材供給

2016-17年には、大型の木質バイオマス発電所が多く稼動し始める(木質バイオマス発電2016年問題)。現在、未利用木質バイオマス発電の認定は合計39万kWに上っており、780万㎥程度の木材を要する計算になる。そもそも林地残材等の未利用材は、搬出コストが販売価格よりも高くなるなど、使いづらいために未利用であった。大量に安定的に収集するためには、林道・作業道の整備、全木集材、移動式チッパーの導入、人材育成などそのためのしくみを構築する必要があるが、そのためには時間がかかる。

また、タンコロ(根元部分)や枝条は、搬出コストが丸太よりも高いため、燃料利用はあまり行われていない。自治体が材の搬出に補助金を出しているが、これがなくなると搬出量が一挙に減るケースもありうる。

パルプ材との競合も生じており、特に島根、宮崎、鹿児島県などでは、パルプ材の価格がFIT開始以来50〜60%上昇している。

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図:パルプ材価格(針葉樹丸太)の推移

図:パルプ材価格(針葉樹丸太)の推移

資料:農林水産省統計(提供:日本製紙連合会 常務理事 上河潔氏)

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中部、関西、中国、四国地方などで未利用材が供給不足となる可能性も指摘されている【*9】。ドイツにおいても、FIT制度開始当初、5,000kW級の木質バイオマス発電が乱立し、木質チップ価格の上昇などによりその多くは破たんした。このまま木質バイオマス発電の建設が続くと、日本でも同様の事態が再現される可能性が高いと考えられる。

③適切な施業の担保とトレーサビリティ

森林管理・林業の状況は、自治体や地域によって大きな差がある。林地の地籍調査は2015年3月末時点で44%にとどまり、林地の半分以上で、所有者や境界が特定されていない状況にあるため、間伐などもままならない【*10】。国からの間伐補助の要件となっている森林経営計画の策定率も2015年3月末時点で民有林全体の28%にとどまっている。これらを加速的に整備し、林業への意欲を失った所有者から施業を行う主体へと森林を集約化・管理する制度が必要であろう【*11】

2016年3月、鹿児島県で「責任ある素材生産業のための行動規範」と「伐採・搬出・再造林ガイドライン」がまとめられた。国でも2016年通常国会で森林法の一部改正が可決されたが、適切な施業のために取り組むべきことは多い。

また、FIT制度の未利用材および一般木質では、伐採届からのトレーサビリティが確認できることが買取条件となっている。チップになれば両者の区別はつかないため、不正が生じないよう、幅広い関係者による通報制度や立ち入り検査、罰則の導入を含め、人手や費用を最小限にしつつ実効性のあるシステムの構築が望まれる【*12】

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課題4:熱利用

世界的に見ても、バイオマス、特に木質など固体バイオマスでは、熱利用が主流であり、発電の場合も利用効率向上の観点から、コジェネレーションが望ましい。だが、現在のFIT制度では熱利用の義務付けやインセンティブがなく、実際のFIT認定においても、熱利用を行っている事例は少数である。2015年4月より、未利用材に2,000kW未満の規模の電力買取価格を40円とする新しい区分がつくられたが、この規模で国内で順調に稼動している事業は少なく、事業には細心の注意が必要である(詳細はコラム③参照)。

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課題5:適切な事業計画

バイオマスは太陽光など他の再生可能エネルギーとは大きく異なる性質があるが、林業やバイオマスについての十分な知識や経験なしに木質バイオマス発電事業を計画している事例も多く見られる。

森林総合研究所は2015年、発電規模、燃料の比率、燃料の購入単価、燃料の含水率等を入力すれば、バイオマス消費量やキャッシュフローなどが出力される、「木質バイオマス発電事業採算性評価ツール」を開発し、希望者に無償配布している【*13】。こうしたツールの利用により、適切な事業が行われることが望まれる。

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