振り返ってみると、一昨年前と同様、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の木質バイオマス発電に振り回された一年だった。未利用木質バイオマス発電をめぐる混乱は、一定の歯止めがかかってきたようにも見られるが、一般木質バイオマス発電については、既に200万kW以上という膨大な事業が認定され、さらに増えつつある。海外から「シャングリラ(理想郷)」、「クレージー」といった声が上がる、大きな欠陥のある制度であり、例えば2万kW以上の新しい買取価格の区分を設定するなど、早急な改善が必要であろう。
一方、未利用木質バイオマス発電に2,000kW未満で40円/kWという新区分ができ、ちょうど太陽光発電の価格が引き下げられたことから、大挙して太陽光発電の事業者が小型木質バイオマス発電に参入してきた。だが、小規模木質バイオマス発電は、実は発電事業というより熱利用事業であり、熱利用についての知識なしには、成功はおぼつかないだろう(コラム②参照)。ドイツでも失敗事例は山ほどあり、日本での事業展開には、かなり綿密な調査と調整を要しよう。
FIT開始以来、計画・稼動した木質バイオマス発電事業は150以上にもなるが、到底、それらすべてが20年間、順調に稼動できるとは考えられない。これらの事業は、①概ね順調に稼動できる事業 ②赤字が出るが、親会社や自治体などが補てんし継続する事業 ③破たんする事業 ④計画段階で取りやめる事業 の4つに分けられるだろう。生死を分かつのは、何と言っても、バイオマスを一定価格以下で安定的に調達できるかどうかである。協定や契約があっても、価格変動の大きい商品である木材が、安定的に供給されるかどうか、20年という長さを考えると容易なことではない。
また、経産省の調査報告書を見ても、木質バイオマス発電の原料予定量の半分以上は、海外からの輸入である(トピックス1)。数百、数千万tという単位のバイオマスが、はたして海外から持続可能な形で調達できるのか、そもそもカナダから運んでくる木質ペレットを発電に利用した場合の温暖化対策効果は、どれほどのものなのか。EUの研究では遠距離を運ぶペレットによる発電は、化石燃料と比べて10%程度の温室効果ガス削減効果、つまりほとんど効果がない、という結果が出ている(トピックス2)。それを国民負担の上で行うべきなのか、調査・研究し、議論し、改善を図るべきではないか。
上のEUの研究によると、地域の残材を熱利用に使えば、90%以上の温室効果ガスを削減する効果がある。木質バイオマスの熱利用にもまだまだ課題は多いが、温暖化対策の点からも、経済性や農村地域活性化の点でも優れている。そのためには、木質バイオマスのすそ野としての薪ストーブユーザーを増やし、山仕事や林業に携わる機会を促し、チップなど木質バイオマス燃料の供給網をつくり、地域の熱需要を調査し、地域エネルギー事務所(それほど大がかりでなくても、地域に一人、専門家がいるだけでも違う)が情報提供や調整を行うといった方策が有効だろう。既存の教育や職業研修プログラムに木質バイオマス機器利用を取り込んだり、木質バイオマス利用を実際に行っている企業や組織が、研修や出向のような形でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を受け入れる、といった取り組みは、それほど大きな費用をかけずに、効果が期待できよう。また、コジェネレーションおよび再生可能熱利用促進、建物の新築・改築時における再生可能エネルギー機器導入検討義務付けなども、費用対効果にすぐれた温暖化対策である。
地域で木質バイオマス利用(に限らないが)を考える場合は、先端技術(今なら水素など)よりも、実用化した技術や多くの稼動実績のある機器を導入する方が堅実である。それらをどううまく取り入れ、動かし、地域の経済社会に役立たせ、広げていくか。そうした地道な、あたりまえの取り組みこそが、今、最も求められていることではないだろうか。今後も、そうした取り組みと支援を続けていきたいと考えている。
<NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊 みゆき>