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トピックス 東日本大震災・原発事故と今後のバイオマス利用を考える

2. 再生可能エネルギー電力買取法(FIT)の成立と課題

(1)FIT法の成立とバイオマス電力

2011年8月、管直人首相の辞任条件になるなど紆余曲折の末、再生可能エネルギー電力全量固定価格買取制度(FIT)、電気事業者による再生可能エネルギー調達に関する特別措置法が成立した。

このFITとは、すでに世界80以上の国や地域で導入されている、再生可能エネルギー電力を固定価格で買取ることで、利用拡大を促す制度である。日本のFIT法は、2012年7月の施行が予定されているが、買取価格が決定されるのは5月頃の見込みである。

電力買取価格は、低すぎれば再生可能エネルギー電力の増大に結びつかず、高すぎれば国民や産業界の負担が過剰になる。条件や利用可能量によって、適切な設計を行うことが重要である。

特にバイオマス発電では、①バイオマスが建材や紙パルプ、飼料など他の用途と競合すること、②エネルギー利用としても発電だけでなく熱利用もあること、③燃料となるバイオマスの輸入が可能であること、④適切な対策がとられないと森林破壊など生態系の破壊や、化石燃料以上の温室効果ガス排出につながる可能性があること、といった他の再生可能エネルギーと異なる特徴があり、十分な配慮が不可欠である。

日本のバイオマス資源のうち、使いやすい建設廃材などは、すでにほとんど使われており、今後、利用拡大が可能なのは、林地残材と食品廃棄物などの水分量の多い廃棄物バイオマスである(下図)。特に切り捨て間伐材などの林地残材は最も多いため、大きな期待がかけられている。

図:バイオマスの賦存量と利用可能量(出所:農林水産省資料)

図:バイオマスの賦存量と利用可能量(出所:農林水産省資料)

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(2)「林地残材でバイオマス発電」は無理が多い

だが、「では、FITの電力買取価格を高めにして林地残材でバイオマス発電を促進すればよい」かといえば、それほどことは単純ではない。林地残材は、基本的に「使えない」資源なので林地に残されてきたのである。

日本林業が衰退して久しい。「森林・林業再生プラン」などによるてこ入れが始まっているが、欧米に比べて大きく遅れている林内の路網整備、木材加工・流通やマーケティングの改善など、「日本の林業は産業ではない」と言われる状況を変えることは、一朝一夕では実現できない【*6】。そもそもエネルギー利用は、有機資源利用の中で最も価値が低い利用法である。木材なら、まず建材として使い、建材として使えなくなったらチップ化してボードや紙の原料とし、紙も何度かリサイクルし、いよいよ繊維がぼろぼろになって紙にならなくなったら、燃やして電気や熱として利用することができる(カスケード利用)。もちろん、林業や木材加工段階で出てくる樹皮や端材なども適宜、エネルギー利用できる。日本のバイオマス利用可能量の半分は、森林由来のバイオマスであり、今後のバイオマス利用拡大には、林業振興が不可欠である。

切り捨て間伐材をなぜ降ろして使わないかと言えば、搬出費用が材の販売価格を上回るからである。林地残材の搬出費用はケースバイケースで大きく変わるが、6,000〜20,000円/㎥程度とされる。一方、燃料用としての取引価格は3,000円程度であり、到底、引き合わない【*7】。

第二に、林地残材を一定価格以下で、大量に安定的に集めることは難しい。バイオマスはかさばるので、特に陸上輸送の距離が長くなるとコストがかかるだけでなく、輸送用燃料を消費し、CO2削減効果が減ってしまう。

さらに、無理に安いチップの大量需要に応えようとすると、地道に作業道を整備して間伐材などを降ろすのではなく、手っ取り早く安価に大量の材を調達できる大面積の皆伐が広がるおそれがある。発電効率は、発電規模が大きいほど上げやすい。1万kWのバイオマス発電施設は、年間10万t以上のチップを必要とする。

近年、九州などで100ヘクタールを越える皆伐が広がっている上に、再造林(植林)が行われていない。こうしたことが起こる一因は、土壌流出などの問題がある伐採の「伐採届」が提出されていなかったり(違法である)、伐採届が出されていても、人手不足などで自治体が十分チェックできていないためである。FITによって大量のチップ需要が生み出される一方で、こうした歯止めが機能しないままだと、各地にはげ山が広がる可能性がある。

つまり林地残材は、大量に安価なチップを求められる(特に大規模な)発電用途には向かない資源なのである。林地残材は、建設廃材より水分量が多く燃料としての価値が低いにもかかわらず、搬出費用がかかるため建材向けよりも高くなるという「使えない」ものなので、使わないのが(経済的に)正しい姿とも言える。

もちろん、この前提条件のどこかを変えることで、「使える」資源にすることはできる。最近、各地に広がっている「バイオマス集積基地」では、一定価格で材を買い取るようにしたところ、自伐林家などが搬出するようになり、これまで林地に放置されていた材の利用が進むようになっている。林地残材は、こうしたバイオマス集積基地で行っているように、製紙用チップなどや、それらに向かなければ熱利用とするのがよいだろう(コラム2参照)。

ボイラーでの熱利用なら万トン単位である必要はなく、燃料供給力に応じたボイラーを導入すれば、無理がない。かつ、薪や丸太ボイラーであればチップ化費用がかからないため、燃料買取価格を高くできる。そうした熱利用のうち、条件が合えば熱電併給(コジェネレーション)を入れるのが、やりやすいバイオマス発電の一形態である。

大量で安価なバイオマスを必要とするバイオマス発電は、基本的に林業や木材加工によって出る樹皮や端材、あるいは利用後の廃棄物が燃料に適しており、その場合も、20%台の発電効率の電力単独ではなく、熱利用も含めた総合効率が80%程度になるコジェネレーションが望ましい。

農林水産省は、FIT施行も視野に入れ、2012年2月、バイオマス事業化戦略検討チームによる検討を開始した【*8】。また、耕作放棄地などを利用する再生可能エネルギー利用拡大を目的とする「農山漁村における再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律案」を国会に提出している。ただし、農水省が一定の賦存量があるとして挙げている農作物非食用部(上の図参照)においても、林地残材と同様、発電施設が必要とする、まとまった量を安価に安定的に供給するシステムがこれまで存在していない。そのため、今後、農村において、飼料に向かないバイオマスをエネルギー利用するにあたっては、まず小規模でも可能な熱利用を基本とし、状況によってはコジェネレーションとするのが妥当であろう。

なお、FITのバイオマス発電の買取価格はまだ決定されていないが、一つの目安は、他用途である製紙用チップをやや下回る程度もしくは同程度の原料買取価格に基づく発電コストとすることが考えられるのではないだろうか【*9】。また同時に、伐採届などがきちんと機能することも重要である。

もし、単純に林地残材の搬出費用にチップ化、輸送費用を上乗せすると、建材向けを超える価格になって、林業現場は大きく混乱するおそれがある。下図は、政府のエネルギー・環境会議コスト等検証委員会報告書に載ったバイオマス発電のコストだが、単純なコストを根拠とするのではなく、上のような事情を勘案しながら、買取価格を決めていく必要があるのではないだろうか。

図:バイオマス(木質専燃・石炭混焼)の発電コスト

図:バイオマス(木質専燃・石炭混焼)の発電コスト
出典:エネルギー・環境会議コスト等検証委員会報告書【*10】

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