2007年は、「バイオマスプラスチック」の普及促進の体制が進んだ年となった。2006年から本格運用がはじまった(社)日本有機資源協会が認定するバイオマスマークは、07年11月末段階で、認定商品が143点と着実に増えてきた。また、生分解性プラスチック協会を母体とした「日本バイオプラスチック協会」が07年6月に発足し、この協会が実施するバイオマスプラ識別表示制度を利用した商品は38点となった。このバイオマスプラは、バイオマスプラスチック度が25%以上、当協会のポジティブリストに掲載されたものを使うなどの基準に適合する製品を認証しており、制度の認知度向上と製品点のさらなる増加が期待されている。
バイオマスプラスチックの中心であるトウモロコシ由来のポリ乳酸は、バイオ燃料ブームを受けたトウモロコシ原料の高騰によって、価格上昇の影響が採用を控えるケースが多くなっている。よって、トウモロコシ以外の原料のひまし油原料由来のポリアミド、キャッサバ・サトウキビ由来のPBS(ポリブチレンサクシネート)など、多種多用な原料由来のものが検討されている。
特に地球環境産業技術研究機構と本田技研研究所が共同で、雑草を原料にポリプロピレンを合成する技術を開発したのが大きなトピックであった。ポリプロピレンは自動車部品や包装材など様々な分野で使われている。これは、植物繊維を糖に分解、遺伝子を組み込んだ大腸菌などの微生物を利用してアルコールの一種「プロパノール」をつくりポリプロピレンを合成、雑草2〜3kgからポリプロピレン1kgができるという。石油から製造する既存の設備も活用できるため、量産が可能という。植物から汎用樹脂を作る試みは米ダウ・ケミカルがブラジル企業と共同で、サトウキビ由来のバイオエタノールを原料に、レジ袋や容器などに使うポリエチレンの生産に乗り出している。
またトヨタ車体も、2007年10月の東京モーターショーに、ケナフ由来のバイオマスプラスチックを国産の草「麻苧(まお)」で強化した外装部品を採用したコンセプトカーを出展した。
バイオマスプラスチックに次いで注目されはじめたのが、京都大学の矢野浩之教授らが研究しているバイオナノファイバーである。バイオナノファイバーは、すべての植物の基本骨格材料であり、木材パルプをさらにすりつぶすことによって製造され、軽くて、鋼鉄の5倍、ガラスの50分の1以下の線熱膨張をもつ幅4nmのナノファイバーである。
竹繊維ナノファイバー
(京都市産業技術研究所 工業技術センター提供)
次世代の薄型ディスプレイとして注目されている有機ELにナタデココ由来のバイオナノファイバーを実験的に使ったことで知られるようになったが、2008年度からは、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシやフェノールなどの熱硬化性樹脂、そしてゴムとの複合化技術の実用化という開発を各大手企業と連携して行うことになっている。パルプ原料を出発点としているため、王子製紙と日本製紙も参加しているのが特徴である。
植物繊維から金属並の強度ができるという先端的な材料をバイオベースで行っており、自動車、家電、建材、包装容器などの各方面へ実用化されていくことが期待されている。
<赤星 栄志(Hemp-revo,Inc.COE)>
バイオマス利活用に関心を有する私たちは、海外での先進的事例とそれを後押しする政策、国内の現状や利活用の可能性を含め、主にバイオマスのマテリアル利用に焦点を絞り、「石油から植物への転換」普及啓発事業を地球環境基金の助成を受けて、3年にわたって行った。
その中で、高知、北海道、沖縄、岐阜の開催地域で地域資源としてのバイオマス利活用への取り組みが生まれ、進展を見せており、バイオマスの産業化への期待が高まっている。一方、バイオマス利活用の認識が深まることで、徐々に制度面、コスト面、技術面、人材面などいくつもの困難な課題が浮き彫りになってくる。
その中でまず顕在化する課題は、コスト面である。例えば、石油由来製品の方が圧倒的に価格が安いという現状がある。バイオマス、自然素材製品が、これに対抗するために単に環境によいとか、日本の伝統であるなどというだけでは、競争力としての優位性はほとんどなく、本来そうあるべきだと思う半面、現実にこうした理想が経済を超克することはない。
2007年沖縄バイオマススクール月桃農園ツアー
環境と経済の両立と言われて久しいがこれを成立させるには、やはり制度・政策として資源や生態系サービスといわれる生命システムの消耗に伴うコスト、自然資本を適正に評価しコストとして反映させる経済システムの構築が不可欠である。政策・制度がコストを支えることで技術革新を促し、それが人材の育成につながる、バイオマスの産業化への課題は少なからず互いにリンクしている。
しかし制度の一端を担うとされる炭素税、環境税の導入は利害の不一致から困難をきわめているように見受けられる。環境を保全すること、再生不可能な「地下資源」である石油に依存した一方通行型の資源利用、ライフスタイルを改めることが産業界をはじめ、行政・政治、市民、だれもが利する社会経済システムのあるべき姿を示し合意形成することは容易ではないが、それが必要であり、バイオマス利活用はその手段のひとつである。
社会経済システムの変革は地球環境問題の深刻化に追いつけるのかという懸念をもちつつ、まずは政策的支援へのコンセンサスを得るための普及・啓発、情報提供活動を行った3年間であったと考えている。
<日本フォーラム 市川 郁紘>