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2017年の動向

2 国内の動向

1. バイオマス利用の概要

エネルギー白書2018によると、日本で2016年度に利用されたバイオマスエネルギー(廃棄物を含む)は原油換算1,597万㎘であり、一次エネルギー国内供給量5億1,227万㎘に占める割合は3.1%だった【*15】

林野庁が行った、平成28年木質バイオマスエネルギー利用動向調査によると、平成28年(2016年)にエネルギーとして利用された木質バイオマスの量は、木材チップが773万絶乾トン(前年比12.0%増)、木質ペレットが21万トン(前年比34.1%増)、薪が5万トン(前年比2.6%減)、木粉(おが粉)が32万トン(前年比12.0%減)で、木材チップのうち、間伐材・林地残材等に由来するものは192万絶乾トン(前年比64.2%増)だった。また、木質バイオマスを利用する発電機の数は240基(前年から8基増)、ボイラーの数は1,972基(前年から27基増)だった【*16】。灰の処理方法については、「産業廃棄物として処理」が638事業所(構成比47.5%)、「農業用に使用」が370事業所(同27.6%)だった。平成27年度調査と比較すると、木質バイオマス発電の稼働に伴い、690万絶乾トンから増加した木質チップの増加が著しく、とくに117万トンから増加した間伐材等由来チップの伸びが目立った。

図:市場価格に合わせたバイオガスプラントの運転例

注:木材チップと木質ペレットに用いられた間伐材・林地残材等の量を換算率
(木材チップの場合2.2㎡/トン)を用いて材積に換算した値。

出典:平成26(2014)年までは、林野庁木材利用課調べ。

平成27、28年は、林野庁「木質バイオマス利用動向調査」及び「特用林産物生産統計調査」。

図:発電における未利用木質バイオマスの利用量の推移

出所:木質バイオマスエネルギーデータブック2018【*17】

2017年のアブラヤシ核殻(PKS)の輸入量は、インドネシアから96万トン(CIF平均価格11.5円/kg)、マレーシアから47万トン(同11.2円)、合計143万トン(同11.4円)で、2016年の76.1万トンから2倍近くに増加した。ペレットの輸入は、下図の通りで、平均CIF価格は、19.3円/kgだった【*18】。国産ペレットは、2016年に生産施設数が6カ所増えて148施設となったが、生産量は12万トンと横ばいである。

図:市場価格に合わせたバイオガスプラントの運転例

図:木質ペレット輸入量の推移

出所:前図と同じ

矢野経済研究所は、バイオマスエネルギー市場規模(発電、熱、バイオ燃料のエネルギー供給量)は、2016年度の2,930億円から2030年度に9,864億円へと拡大すると予測した【*19】。バイオマスエネルギー設備市場規模は、2018年度に3,308億円へ増加し、その後落ち着いて2020年度に2,343億円になると予測している。一方、富士経済は、バイオマス利活用装置・プラントおよびバイオマス由来製品の市場規模は2016年度に4,887億円で、2020年度には6,009億円に増加すると予測している【*20】

2. 政策等の動向(FITについては、トピックス1参照)

2018年7月、第五次エネルギー基本計画が閣議決定された【*21】。再生可能エネルギー主力電源化を打ち出すなど、随所に変化の兆しが見られるが、原子力や石炭火力の見直しが不十分だとの批判も出ている。

バイオマス発電などの再生可能エネルギー電力普及の大きな障害の一つが、系統制約だが、2017年後半、京都大学の安田陽特任教授によって、基幹送電線の利用率が大手電力10社で1〜2割に留まっていると指摘された【*22】。2017年12月より経済産業省の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会で検討が行われ、再生可能エネルギーの主力電源化を目指し、徹底したコスト削減を図り、新たな系統利用ルールを整えること、新規事業者が参入しやすい環境をつくるため、系統・電源情報などの公開も進めることが打ち出された【*23】

また2018年5月、森林経営管理法が可決成立した。森林所有者の責務を明確化し、市町村は森林の経営管理が円滑に行われるよう必要な措置を講ずることとしている。行政主導で民間事業者の森林経営への参入を促すものだが、持続可能な森林経営につながるかどうか、今後の推移が注目される。

国土交通省は2018年3月、下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン-改訂版-および、下水汚泥のエネルギー化技術導入簡易検討ツールを公表した【*24】。下水汚泥、生ごみ、食品廃棄物、家畜糞尿などの含水率の高い地域のバイオマスを集約して利用することが効率的であると指摘されてきたが、管轄官庁が異なることなどから導入が進みにくい面があった。同省は2018年度に下水道エネルギー拠点化コンシェルジュ派遣事業や、下水道エネルギー拠点化メール窓口による個別相談を開始し、これらのバイオマスの利用推進に取り組む【*25】

自由民主党の再生可能エネルギー普及拡大委員会は、2018年5月、日本の再生可能エネルギーコストが高い主因として、参入条件、工事費等、系統制約、出力調整、価格規制を挙げ、これらへの取り組みを呼び掛ける提言を発表した【*26】

北海道は、2018年度、バイオマスアドバイザー派遣事業を実施する【*27】。すでに岩手県でも行われているが、こうした自治体によるアドバイザー制度や、徳島地域エネルギーのように、地域でバイオマス熱利用導入のための適切なアドバイスを行う団体等が増えると、設備導入がしやすくなると考えられる【*28】

2017年8月、一般社団法人日本シュタットベルケネットワーク【*29】が設立された。シュタットベルケは、ドイツの地域の自然エネルギー電力事業などを行う自治体出資の公社だが、経営は民間企業として実施しており、リスクをとりながら、迅速で合理的な事業運営や決定が可能である。

日本木質バイオマスエネルギー協会は、2018年6月、「木質バイオマス熱利用の加速度的な拡大について(提言)」を発表した【*30】。バイオマスボイラーの標準化、熱利用補助の111kW以下の規模への拡大、無圧化をめぐる規制緩和など、木質バイオマス利用関係者がこれまで指摘してきた問題点をまとめている【*31】

3. 種類別バイオマス利用の概要

岡山県の西粟倉村で、2018年4月、木質バイオマス地域熱供給システムが稼働した。村内で出る製材端材チップを230kWのボイラーで燃焼させている。

レイクウッドコーポレーションは、山梨県北杜市にあるレイクウッドゴルフクラブサンパーク明野コースに、木質ボイラーを導入した(下写真)【*32】。オーストリア製ETA社のチップボイラー50kWを5台導入、周辺の県有地でマツクイムシの被害木などのチップを燃料とし、クラブハウス内の入浴施設や調理場で熱利用する。設計・ボイラー設置から保守管理までを徳島地域エネルギーが行っている。

ETA社のチップボイラー

写真提供:徳島地域エネルギー

山形県最上町では、地元の燃料供給事業者に木質バイオマス熱供給事業の運用を委託することで、事業性を高めている(目次上段右写真参照)。また、木質バイオマス利用の先進地、北海道下川町では、2,000kW規模の熱電併給事業が町議会で否決された後、民間企業によって事業が始まった。地域の関係者と十分な意思疎通を図りつつ、持続可能なバイオマス利用が進められることが望まれる。

バイオマス発電の排熱利用も進みつつある。青森県平川市の津軽エネベジは、木質バイオマス発電の廃熱を使った高糖度トマトのハウス栽培を始めた。山形県鶴岡市の鶴岡浄化センターでは、メタンガス発電の廃熱をセンター敷地内に設置した温室で青こごみを栽培する実験が始まった。バイオマス発電の廃熱は、チップ乾燥に使用するのが最も合理的だと考えられる。規模や温度帯がさまざまなチップ乾燥のシステムが導入されつつあり、今後の普及が期待される。

ここ1、2年、急速に石炭火力への風当りが厳しくなってきている。住友商事は石炭火力への批判を踏まえ、11.2万kWの仙台高松発電所をバイオマス専燃に変更すると発表した。四国電力も参画していたが、同事業から撤退した。北米からの木質ペレットなどを検討しているが、数十万トンのペレットの持続可能な安定調達は容易ではないと考えられる。

2017年10月、下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、生ごみを集約してメタン発酵処理し、生成したバイオガスを燃料として発電(1,000kW)する豊橋市バイオマス利活用センターが稼働した。別々の施設で処理する場合に比べ、建設、設備管理・運営にかかるコストを低減できる。JFEエンジニアリングを代表とする特別目的会社が運営する。

2017年度、エネルギー供給構造高度化法で位置づけられている液体バイオ燃料(バイオエタノール)の持続可能性基準が改定された【*33】。2018〜2022年度の間、石油(ガソリン)事業者は、年間50万㎘のバイオエタノールを導入する義務を課せられる。そのバイオエタノールは ①ガソリンに比べLCA温室効果ガス排出が45%未満であること(従来の50%から強化された) ②調達するバイオエタノール又はバイオエタノールの原料が、原料生産国の法令を遵守して生産されていること ③調達するバイオエタノールの原料の需給が食料価格に与える影響を回避すること ④調達するバイオエタノールの生産による原料生産国の生態系や環境への影響を回避すること が求められる(液体バイオ燃料の持続可能性基準)。これまで、海外産エタノールでは、ブラジル産にのみ、ガソリンのLCAにおける温室効果ガス排出の40%(森林からの転換を除く)といったデフォルト(基準)値が設定されていたが、今回、新たに米国産エタノールに52%というデフォルト値が設定された。なお、デフォルト値を用いず、規定に従い、独自に計算することも可能である。


コラム⑥ 木質バイオマスエネルギーとSDGsとESG投資

SDGsという言葉は、国際連合発信で世界共通言語となり、小学校の教科書に載る時代となった。SDGsは、「2030年までに達成すべき17の環境や開発に関する国際目標」のことで、「持続可能な開発目標」Sustainable Development Goalsの略称である(参照)。

その目標第7番は「すべての人々が、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」とあり、さらに「再生可能エネルギー(以下再エネと記述)の割合を大幅拡大、国際協力、関連社会インフラ整備・投資促進を図る」と謳われている。

開発途上国には11億人の人々が電気のない生活を、そして焚き木や乾燥畜糞などで炊事する人々が27億人も存在している。先進国の人々は、瞬時に照明、テレビ、煮炊きがスイッチやコンセントにプラグを入れることで行えることに全く無関心、無意識である。

これらを踏まえ、今一度日本は、しっかりとエネルギー問題に向き合わなくてはならない。それは、化石燃料は有限枯渇性地下資源で、かつ地球温暖化を加速させるエネルギー資源だからだ。それに引き換え、木質バイオマスは、きちんと森林管理をするならば「循環再生可能、温暖化ガス吸収、熱電創出、まちづくり、産業雇用」などと複合的に役に立つ大変な資源であり、日本は世界先進国中第3位の森林面積率67%、森林蓄積量53億㎥を保有する資源大国だ。

再エネに関して、国内企業はPKS消費型発電などを行う事業から、開発途上国へ出かけ再エネ導入技術支援、再エネ発電拡大実施がSDGs#7に寄与することとなる。国内では、小規模木質バイオマス熱電併給施設の設置が、温暖化対策や地域おこしに寄与し、安全な再エネを自分の手にすることが持続可能な開発となる。ここで日本が自覚すべきことは、「日本は今や、環境後進国であり、自然エネルギー、再エネ導入後進国である」ことを認識すべきである。

SDGsには「安価で信頼できるエネルギー」と明示されている。考えることは、木質エネルギーの低コスト化である。この40年間で森林蓄積量は2.2倍に増加しているにも拘らず、森林より材を伐り出す人々も少数で、林業という産業は存在しないも同然。従い、山は荒れ、災害の原因ともなり、生態系循環も維持できない事態となりつつある。従い、次のビジネスチェーンの製材関連産業なども低調と言わざるを得なく、高コストとなる状況下にある。

SDGs 7と13

SDGs全体の根幹であり、達成の鍵を握るのが、目標第13番「気候変動に具体的な対策を」であり、これと密接に関係、表裏一体とも言えるのが目標#7である。この目標#13と#7は、他の目標8つとも関連し、Keyともなるものである。

目標を遂行するには金融の力が大変重要であり、ESG投資という考えが世界で広がっている。これは、Environment、Social、Governanceの頭文字であり、環境、社会、企業統治を重視、配慮している企業を選別投融資することであり、企業の持続的成長、中長期的収益や企業価値向上につながり、財務諸表などからは見えにくいリスクを排除できる投資である。一例は、温暖化ガスを大量に排出することから座礁資産と表現される石炭産業や石炭を燃料とする火力発電所が、その範疇に入り、融資を引き揚げ、中止となり始めた。世界の投融資の3割が既にESG投資になり、その額は2500兆円を超える規模だ。

この様なことから、森林資源を大いに活用しカーボンフリーの社会を目指すことが日本の責務とも言える。

< NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク副理事長 竹林 征雄>

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