ブラジルは、約850万ku、日本の約23倍という広大な国土を有し、その多くが熱帯に位置する。豊富な太陽からのエネルギーによって得られるバイオマス資源を有するバイオマス大国であり、エネルギーの安全保障の観点から、バイオマスエネルギー政策を積極的に推進してきた。1975年に打ち出された国家アルコール政策(プロアルコール)以降、アルコールのエネルギー利用が飛躍的に進み、当時、ほとんどゼロに近かったアルコール(エタノール)を燃料とする自動車販売数は、1985年には92%にまで達した。その後、石油価格の安定、アルコール自動車の低迷などの理由により、2000年には、販売数は1%以下まで減少したが、未だにアルコールを燃料とする自動車は多く、ブラジル全土のガソリンスタンドでアルコール給油は可能である。また、2000年以降はflex fuelとよばれるアルコールとガソリンおよびその混同燃料を利用できる自動車技術普及によって、アルコールの燃料利用は増加している。(ちなみに2005年のブラジルの交通・輸送部門におけるエネルギー利用は、ガソリン24%、アルコール11%、ディーゼル53%)。

 バイオマスエネルギーの利用は、輸送部門のみならず、全体のエネルギーからみても重要となっている。政府の報告では2004年エネルギーの約3割が、アルコール、木質バイオマス起源である。さらに約14%は水力発電からのエネルギー供給であり、44%が再生可能エネルギーである。(図参照)
 現在、このアルコール政策の経験を活かし、エタノール、バイオディーゼル、木質バイオマス、農林産業廃棄物といったバイオマスエネルギーの開発を目指し、省庁を越えた取り組みが発表された。ブラジル政府は昨年、農業省、科学技術省、鉱物エネルギー省、通商産業省と連携で農的エネルギー政策ガイドラインという形で、バイオマスエネルギー政策の方針を示した。この中で、バイオマスエネルギーの利用を、5700万トン(石油換算)から、2020年には、倍以上の1億2千万トンへと増加させる目標を示している。全体のエネルギー需要が約2倍になるという見通しから、比率はほぼ変わらないが、石油は、現在の39.1%から32.7%へとその依存をさらに減少させる予定である。サトウキビや木質バイオマス利用の生産地拡大が前提にあるため、食料安全保障や環境保全への脅威が懸念されるが、拡大地は農業不適地や荒廃地を中心にすえ、既開発地域の効率的な利用を目指している(ブラジル政府発表によるとCO2排出の約75%が森林破壊に由来するものとされ、農牧地転換や森林利用時には豊富な未利用バイオマス資源が無駄に失われている)。サトウキビ産業や植林の歴史には、土地分配の不平等も大きな問題であったが、大規模なバイオマスプロジェクトのみならず、ひまわりの種のバイオディーゼルへのコミュニティでの応用など、小規模なプロジェクトも草の根レベルで展開しつつあり、政府でも小規模かつコミュニティのエネルギー保障を兼ねるプロジェクト推進も視野に入れている。

 ブラジル政府はバイオマス利用の先進国という自覚を明確に持ち、今後のバイオマスエネルギー国際市場や、CDM(クリーン開発メカニズム)等に関しても積極的にかかわっていく姿勢を打ち出しているため今後が注目される。

<日本ブラジルネットワーク代表 福代孝良>