ドイツのバイオマスからのメタノール製造プラント事例(SVZ社)



 燃料電池の燃料として、メタノール(メチルアルコール)が、最近注目を浴びている。通常は、天然ガスから製造されるが、木くずなどバイオマスから製造することもできる。日本でもそうした研究が行われているが、問題は、天然ガス製のメタノールに比べてコストが高くつくことがネックになっている。
 ドイツに、バイオマスからメタノールを製造し、採算がとれているプラントがある。

統合ドイツの激動

 そのプラントは、ベルリン水道の100%子会社である、SVZ(Sekundaerrohstoff Verwertungs Zentrum:二次原料利用センター)社の所有するもので、旧東ドイツのベルリンとドレスデンのほぼ中間にあたる、シュバルツ・プンペにある。
 実はこのプラントは、旧東ドイツ時代に、褐炭(品質の低い石炭)から都市ガスを製造する東ドイツ最大のガス・プラントだった。近隣で採掘される褐炭を年間3000万トン加工し、東ドイツでの都市ガス需要のほとんどをまかなっていた。
 1990年10月に、東西ドイツが統合され、旧東ドイツ地域に旧西ドイツの企業が次々に進出してきた。進出企業は、安くてクリーンな天然ガスを販売し、褐炭製の都市ガスはみるみるうちに駆逐されていった。旧東ドイツの各地で同じように競争力に劣る工場や企業が次々に閉鎖されていた。

 

  SVZ社のプラント

 

  併設されている発電所

 

 SVZ社の前進のプラントでも、天然ガスに対抗しようとコストを下げたが、価格競争ではかなわなかった。このままでは、工場は閉鎖になり、技術者たちは失業の危機に瀕していた。
 そこで新規事業に活路を見出すことにし、これまでのガスジェネレーターを使ってガスを製造するノウハウを生かし、炭素を含む廃棄物や炭化水素を含む廃棄物を含む廃棄物を使ってガスをつくるというアイデアが出てきたのである。
 1992年から大型のガスジェネレーターに入れる褐炭に、廃棄物の添加を始めた。初め5五パーセントぐらいから始め、10パーセントに上げて、今日では80パーセントが廃棄物で、二○パーセントが褐炭という割合になっている。

 ガス化を行うために、酸素と蒸気を混ぜたものを使う。ガスジェネレーターの中の廃棄物が、高圧、高温でさまざまな化学反応が起こる。その後、ガスを洗浄して硫黄分を除去する。この硫黄分は石膏にして販売している。
硫黄分を除去したガスの水素と一酸化炭素が、メタノールに合成される。非常に純粋なメタノールで、国際的な品質基準を満たしたものが製造されるとのことである。

 このプラントで処理されている廃棄物は、以下のようにさまざまなものがある。鉄道の枕木、電信柱、1930〜40年代に建設された工場の床材といった、汚染された木材。包装材の廃棄物。ドイツでは、包装材のリサイクルが義務付けられているが、分別しきれず残った混合プラスチック、シャンプーの容器、ヨーグルトの容器といったもの。さらに、下水処理場の汚泥。SVZ社が受け取るときには、八八パーセント固形分に乾燥させたものを、ブリケット状にプレスして使っている。さらに普通の生ごみや灰など家庭ゴミも使っている。

 

 

 

 

写真:ジェネレーターで燃焼できるよう前処理された、乾燥させた下水汚泥、家庭ゴミ、木材など

 

 そういった廃棄物をガス化ジェネレーターに入れる前には、必ず前処理する必要がある。2〜8センチの一定の大きさの固まり、ブリケットに似た形のものにプレスする。枕木のようなものなら、シュレッダーで同様の大きさに粉砕して使っている。鉄はマグネットで回収する。
その他、自動車工場の生産工程から出てくる塗料の汚泥や、廃棄自動車リサイクル過程から出る、シュレッダーダスト。SVZ社が受け取る全ての廃棄物に対して引き取り料を受けとっている。

2×1×1m程度の大きさにまとめられて運び込まれた家庭ゴミ

 

ゴミをベルトコンベアに乗せる

 

ゴミは細かく砕かれる

 

ゴミを10cm角のブリケット型にプレスする

 

右側の屋根に青い縁取りのある建物が家庭ゴミのブリケット型加工施設
その後方にある白い円筒がメタノール一時貯蔵タンク

 

 廃棄物の引き取り価格は、市場で決まる。ドイツの法律では、廃棄物の所有者はお金を払って処理する必要がある。SVZ社の他にもこうした廃棄物処理施設があり、そうしたところと競合している。
2005年からは、家庭ゴミの技術ガイドラインの規制が始まり、最終処分場に廃棄できるのは、炭素の含有量が5パーセント以下のものになる。5%以下というのは、要するに焼却しないと処分ができないということである。

 固形廃棄物のガス化を行っている固定床のジェネレーターは、径が3.6、高さは9メートルで、25五バールの圧力がかかっている。

ジェネレーターの模型

 

 ジェネレーターの下の部分を閉めた状態で、上から廃棄物を入れる。ガス化する際には、酸素と水蒸気の混合物を下から入れる。下の部分が回って、廃棄物が回る。ジェネレーターの中はいくつかの層になっており、それぞれ温度が異なっている。
 一番目は乾燥層で、ここに落ちてきた廃棄物は、乾燥する。次に、熱分解。燃焼に近いが制御しながらの燃焼。その下の層でガス化が行われる。熱分解の時はコークスの状態で、炭素が非常に濃縮されている廃棄物が残るが、そこでまだ残っているコークスをガス化する。
約300度でガスがパイプから出て、そのガスを冷却する。冷却する時に蒸気が発生する。蒸気は蒸気でまた利用する。その後ガスの浄化を行い、メタノールにする。
 500度の温度で45バールで銅の触媒の周りにガスを通すと、一酸化炭素と水素からメタノールができる。ここでできたメタノールはまた粗製メタノールで、純度が低いものである。別のプラントに入れて、沸点の差を利用して、純度の高いメタノールにする。精製したメタノールはタンクに詰めて、さらに貨車に積みこんで、出荷されていくことになる。

 

製造したメタノールを一時保存する貯蔵タンク

 

 同社の工場敷地内には、旧東独時代に引いたガス輸送用の鉄道の線路がはりめぐらされている。
このガス化のプロセスは閉鎖されたシステムになっており、、内側の圧力が低くなっていて、外に漏れない。また、燃焼温度が高いので、ダイオキシンも発生しない。
 ガス化をしたあとで、スラグが残る。スラグは有害物質を閉じ込めていて、水がかかっても溶け出さず、最終処分場で破棄しても問題はない。道路建設材としても使える。
 排ガスは、バイオフィルターを通して、細菌、微生物によって浄化する。排ガスなどは、ドイツの廃棄物管理法などの環境保護法の規定を遵守しているとのことである。

 

工場施設内に張り巡らされている鉄道の線路

 

製造されたメタノールは貨物列車で搬出される

 

 現在同社では、できるだけ廃棄物の最適な混合比で燃焼を行っている。50パーセントがプラスチック、15パーセントが木材、一五パーセントが乾燥させた汚泥、残りの20パーセントはその他という構成である。
この混合比だと、安定した状態で処理を行うことができる。一種類の廃棄物では、安定した状態での運転が難しい。石炭からつくったブリケットの性質は安定しているが、廃棄物は何が入っているかわからず、安定していないため、試行錯誤が必要だった。
プラントを動かすオペレーターの立場からは、燃焼させる内容は常に一定であることが好ましいが、材料を市場で調達する立場からは、様々なものが混じってくる。その二つの調整が難題である。
 SVZ社が行っているのは、一つは化学産業、もう一つはエネルギー産業、三つ目は廃棄物の処理の三つを同時に行っているということであり、技術的な困難さはある。

 市場で決まる廃棄物の引き取り料は、平均でトンあたり200マルク(約1.2万円)程度、木材なら80マルク(約4800円)程度である。プラント内には、ガスタービンの発電機(75メガワット)もあって、これらプラントで使う電力を賄い、余剰があれば売電している。また、プラント内で発生した蒸気も熱として販売している。

 SVZ社の収入における引き取り料とメタノールや電力などの販売額の比率は、引き取りが6割、販売する方が4割程度。引き取り料をもらわないと、採算が取れない。少なくともドイツでは経済的に無理である、とのことだった。
その理由としては、メタノールを製造するためには、合成ガスをつくる必要があるが、バイオマスから合成ガスをつくろうとするとタールが出る。蒸気が水になった時、水を汚染し、ガスを汚染する原因になる。タールをいかに出さないかが課題だが、難しい複雑な技術となる。また、バイオマスには前処理が必要で、これが価格競争力を低くしている、とのことである。

 SVZ社のこのプラントは、先進国においてバイオマスをエネルギーおよび原料として利用するには、廃棄物をその処理費込みで利用すれば、経済性を追求することが十分可能であるという証拠になると言えよう。なお同社は、この技術を他社にライセンスすることは可能であると答えている。
(取材/文 泊みゆき)

*SVZ社のホームページ(英語の説明あり) http://www.svz-gmbh.de/