「バイオマスエネルギーの利用:日本の課題と欧米の動向」

             熊崎實(筑波大学名誉教授・バイオマス産業社会ネットワーク顧問)


 

                                         

                                                                          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                                

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本のバイオマス利用について、残念でならないのは、日本には木質バイオマスがあふれているのに、それを利用しない国だということです。今日本の木材自給率は2割を切っている。では日本に木材がないかといういうと、いたるところにある。山では切ってもほとんど出されないまま捨てられている。都市では、建築廃材が、日本の木材生産量を上回るぐらい捨てられている。それをなんとかもっとうまく利用しながら循環型社会をつくっていくというのが、私がこうした活動をする動機になっているわけです。

  で、今私が行っているのは、バイオマスのエネルギー利用です。このごろエネルギー問題への関心が高まってきて、バイオマスエネルギーの話をしてくれという依頼が増えています。それには二つ理由がある。一つは、木質系の廃棄物が本当に増えたが、その処分が問題になっている。ダイオキシンの発生を押さえる規制のために、都市の木質系廃棄物もそうですが、山の方でも、木を切るときにたくさん出る枝や木の端くれの野焼きができなくなった。だから、それをエネルギーに変えられないかということです。

  もう一つは日本の森林は動かなくなった。間伐をやっても木材の使い道がないから、みんなそこに捨てられてしまう。それを利用したいということで、山の人たちもそれを考えているわけです。

  バイオマスをどう定義するかというのは非常に難しいのですが、エネルギーの観点から言うと、バイオマスというのは太陽エネルギーをため込んでいる生物体です。エネルギーの源で一番大事なのは、太陽です。太陽以外の自然エネルギーには、潮の満ち引きや地熱がありますが、それ以外の風力、太陽光、バイオマスも根元はみんな太陽です。

  太陽のエネルギーというのは、非常に希薄です。太陽の光あるいは熱を使って発電するというと、かなり大がかりな仕掛けをしないと発電できない。ところが植物というのは、実に巧妙に太陽のエネルギーを捕まえてくれている。太陽のエネルギーで光合成をするのですが、その光合成というのが太陽エネルギーを植物体の中にためこんでいるのです。

 今、バイオマスのエネルギー利用というのが非常に頻繁に言われるようになってきましたが、それが出てきたのは1990年代です。日本は、全然だめだったんですが。やはり一番大きな理由は、地球温暖化です。もう化石燃料をたくさん使うわけにはいけないということになって、それで化石燃料を使えなくなったらどうするかという話になった。で、その次に来るのは、はやりバイオマスだろうという論議が出てくるわけですけれども、それを言い始めたのは、イギリスのキングス・カレッジにいたデビット・ホールという人です。光合成の研究で有名な生物学者です。

  それでなぜ生物学者たちがバイオマスエネルギーに興味を示したかというと、それは植物の光合成のメカニズムが研究すればするほど、植物というのがいかに太陽エネルギーを効率的に実に巧みに固定する、それがわかってきた。それだけせっかく植物が巧妙にため込んでくれたエネルギーを利用しないことはない、ということになるんです。 ところがその植物のため込んでくれたエネルギーを利用するというは、なかなか大変なことで、進んだ技術がないとそのエネルギーをみんな取り出すことができない。

  バイオマスというのは、草でも木でも何でもいい。家畜の糞でも、人間の屎尿、家庭から出てくる食糧系のゴミ、これもみんなバイオマスです。それで、ふつう木材だったら、乾重量、完全に水分を取った木材1kgは平均で4,500kcalぐらいの熱量をもっている。で、その4,500kcalを火をつけると、燃える。燃えるというのは、これは、光合成の逆のことをやっている。

  光合成というのは、二酸化炭素と水を合成して炭水化物をつくる。今度はその炭水化物に酸素を加えて酸化させる。そうするとCO2と水が離れて、そこでためていたエネルギーを放出する。火をつけて燃やすというのは非常に集中的に燃やすものですから、その時は非常に高い温度が出る。薪を焚いて暖かい、それはそういうことで集中的に熱を放出しているわけです。

 単純に燃やしても、エネルギーを出すので、それでお湯をわかすこともできる。けれども、そういった単純なやり方でお湯を沸かすというのは、その木材の持っている1kgあたり4,500kcalぐらいのほんの数パーセントぐらいしか利用したことにならない。みんなよそに飛ばしてしまっている。

 ところが、それを今の進んだ技術で、例えば電気に変換すると、その4,500kcalのうちの例えば40%ぐらいは電気に変えることができる。電気は、非常に高い熱で採るので、電気を採ったあとに、必ず廃熱がある。そうすると、その廃熱をもう一回暖房や、お湯を沸かすのに使うと、総合的な効率は80%ぐらいになる。植物がため込んでくれた1kgあたり4,500kcal、これは、大体石炭の2/3に当たますが、その8割を使うことができるわけです。

 実はそういったように利用する技術がだんだん出てきた。だから、90年代以降、バイオマスエネルギーに非常に注目が集まってきたわけです。

  バイオマスのいいところは、植物ですから、一回収穫してもまた生えてくるということで、これは化石エネルギーとちがって、枯渇するということがない。毎年毎年、再生できる。それから、もう一つ、石炭などと比べたら、バイオマスで発電した場合は、大気を汚すような物は出てこない。硫黄酸化物が非常に少ない。石炭と比べたらずっと少ない。窒素酸化物も少ない。それに、大気中の二酸化炭素については、中立的です。

  中立的というのは、今山にある木なり、どこかに生えている草をエネルギーにして利用するというのは、過去10年、20年の間にその植物が、大気中から二酸化炭素を吸収して大きくなってきたわけです。それで今度はそれを燃やしてまた二酸化炭素にもどる。結局、現在、あるいは近い過去に生きていた植物だったら、それを今利用しても、その植物が吸収した二酸化炭素をもう一回大気に返しているということです。

  あるいはまた、今山から間伐材などを持ってきて燃やすと、そこにまた植物が生えてくる。そうしたら、今燃やした植物の放出した二酸化炭素は新しい植物によって吸収されると見てもいいわけです。

 もっと大事なことは、燃やすということは、酸化です。自然に木が枯れて分解するというのも酸化です。バイオマスに火をつけて燃やす、ああいう集中的な急激な酸化のやり方をやったら、非常に高い熱が集中的に出てくる。ところが、木が枯れてそれが長い間にだんだん腐っていく、その場合も熱が出ているけれども、その場合は、低温の熱になって出ていく。だからそのプロセス自身は、急激な酸化かゆっくりした酸化かの違いだけで、環境に対してよけいな熱を付加するとか、よけいな二酸化炭素を出すということはない。それがやはり、バイオマスの非常にすぐれた点であるということです。

  もう一つの利点は、どこにでもあるということです。それから、燃料として不要な成分、例えば石炭とバイオマスを比べたら、バイオマスには酸素などがたくさん入っている。ところが石油や石炭の酸素は、化石化の過程でみんな抜けてしまった。だから実にいい燃料になっている。貯蔵もきく、輸送もできる。ところが、バイオマスこと生物燃料には、生きた植物の成分が残っている。それを良質な燃料にするにはやはり、化石燃料よりは多少手間がかかる。

 だからそこで化石燃料とコストの面で対抗しようとすると、どうしても不利になっていくわけです。ただ、化石燃料はほんの一部の地域に偏在しているわけです。特に石油は、存在しているところが大体決まっている。ところが、このバイオマスというのは、植物の生育するところだったらどこでも存在する。どこでもこのエネルギーを利用できる。それが非常に重要な点だろうと思います。

 

「もう一つのエネルギー革命―生物燃料の復活―」

  日本で生物燃料をどう復活させるかという問題は、非常に難しいと思います。日本では、これだけ集中的に発電をして、それで全国くまなく配電するというインフラができてしまっているから、これを分散型の自然エネルギーを利用した持続可能なエネルギーに変えていくのは、すごく大変でしょう。考えようによっては、今の開発途上国の方が一足先に、本当に持続可能な社会になっていくんじゃないかという予感がいつもしています。

  例えば、インド。インドというのは、人口一人あたりの森林面積は、日本より少なくて、人口一人当たりの森林面積は1/3ぐらい、世界平均の1/10ぐらいしか森がない。そういうところでバイオマスを使いながら新しいエネルギー利用を考えられないか。 つまり、インドの農村地帯では今でも電気も、近代的なガスも入っていない。薪や枝や家畜の糞といった、色々なものを使ってエネルギーを採っている。

  日本も昔はそうだった。日本は今から何十年か前に、半世紀ぐらい前あたりから、エネルギー革命が起こったわけです。 そのエネルギー革命というのは、生物燃料から化石燃料に変えた。電気を入れ、ガスを入れ、それで僕らの生活が随分、豊かになりました。だけれども、僕が田舎で子どもの頃というのは、みんなまだ薪を使ったりしていた。そういう生活から、ガスが入り電気が入るわけですけれども、このガスというのは、化石燃料です。

  けれどもこれからインドなどでは、化石燃料を経ずに、今までのような生物燃料がガスや電気に変わっていく可能性が非常に出てきたわけです。そうすると、化石燃料の時代や原子力の時代をとばしてバイオマスの時代にいくんじゃないか、という予感がしているんです。

 デビット・ホールと、インド人のN.H.ラビンドラナータという学者が、二人で書いた本で、開発途上国におけるバイオマスエネルギーについて論じています。インドの家庭用、主として調理用のエネルギー源のうち、燃材、つまり樹木を伐採したものというのは、たった9%です。19%は枝など。それから農場などからの枝というのが21%でかなりの量になっている。劣化した土地というのは、焼畑などをやって森林がなくなった土地にも、ぼそぼそと休閑地となっていたり、そういったところからエネルギーを色々なふうに採ってきている。非常に多様なエネルギー源です。ここには牛の糞がないですけれども、牛の糞もエネルギー源です。

 実はこういった伝統的なエネルギーというのは、あまり効率がよくない。例えば典型的なものとしては、南インドの調理用ですが、この場合だと、例えば牛の糞。伝統的なかまどで燃やしたら、一人当たり11.8メガジュールぐらい要る。ところが後の方になってきますとどんどん効率がよくなっていく。伝統的なやり方でお湯を沸かしたら、木材の持っているほんの数パーセントしか利用したことにならない。ところが木材から40%ぐらいの効率で電気が採れるということになれば、この電気というのは、非常に効率がいいわけです。あるいはガスにしても効率がいい。ですから、木材というもの、あるいはバイオマスを効率的に変換できるのであったら、非常にエネルギーの節約になっていくわけです。

  これはどこでもそうなんですけれども、インドの都市世帯で燃料消費がどうなるか。所得が高くなると、牛の糞の使用量が減り、次にバイオマスをそのまま使うのも減っていく。その次がコークス。そして灯油。そしてガス、電気。所得が上がっていくと、バイオマスの伝統的な燃やし方から、ガス、電気に移っていく。移っていく時に、これまではみんな化石燃料でやってきたけれど、生物燃料でできないかというのが私の考えです。

  牛糞というのは清潔ではありません。清潔さやエネルギー効率、そして資本費用、これは投資がどれだけいるかという問題。電気を発電するとなったら、かなりの資本費用が要る。燃料の選択基準を考えると、だんだん清潔さが増し、エネルギー効率が上がる。その代わり資本費用が 高くなる。そう進んでいく。どうしてもそうなります。

 資本費用がかかるのはある程度やむを得ないが、ここで化石燃料に切り替わらずに、バイオマスでできないか。ラビンドラナータやデビット・ホールたちは、それはできると言っている。今は色々な牛の糞や農作物の屑や木材を使っているが、そのバイオマスの使用量をあまり変えないで、少なくとも今インドの農村が必要としている必要最低限のガスと電気をなんとか賄える。ガスはメタン発酵で賄う。家畜の糞や木の屑、人糞も入りますが、それでメタン発酵させて、調理はそれでみんなすんでしまう。それから村で、コミュニティで、発電する。100kwくらいの小さな発電所をつくり、そこで木をガス化して、エンジンを回して発電し、そのコミュニティに供給する。

  今インドは、だんだん森林をコミュニティに管理させるという方へ動いている。昔は森林はみんな国有だということで国のものにしたんだけれど、国に預けても管理できなかった。森林は荒れてしまったわけです。それで今、森林をもう一回ローカルピープルに返して、管理権を与えるようとしている。そうすると、コミュニティが森林の管理権を与えられ、エネルギーも自分たちで管理できる。エネルギー委員会のようなものができて、その人たちがこのエネルギーも管理することが可能になる。

 今この人達が行っている計画では、インドの天然林は一切、切らない。実際問題としてインド政府はもう、自然林、本当の天然林の伐採は、国有林の場合禁止しています。これからのバイオマスの生産は、荒地に植林して、そのバイオマスでエネルギーを賄っていく。 それにも二通りあって、電気を起こす場合、自分たちのコミュニティで実現する部分と、みんなで植林して発電して、それを外部を売る場合の二つがある。それがどのぐらいの実行可能性があるかということを、この二人は試算しました。その結果、可能であると結論づけています。

 僕はこれを見て、これからひょっとしたら開発途上国はこういうふうにいくんじゃないかと考えました。インドのような広大な国で、すみからすみまで送電線を張り巡らせて、つまり日本のように非常に大きな発電所をつくって、そういうところから送電線を送るなんて、およそ考えられないことなんです。そうすると、そこのコミュニティや小さなところで発電所をつくって、分散型の発電所にして、それぞれの地域で利用できるエネルギー資源、バイオマスがあるところだったらバイオマス、太陽光が利用できるところだったら太陽光、風力だったら風力、そういったかたちで、それぞれその地域で利用できる資源を使っていく、そういうエネルギーシステム、僕はこれが本当の将来のエネルギーのシステムだと思うんだけれども、それが、日本よりもかえってこうした開発途上国の方が、早くいくんじゃないかなと考えています。

 これから日本も開発途上国のエネルギー問題について援助を行っていくと思いますが、僕は本当の援助というのは、化石燃料や原子力に頼らないでもある程度経済が伸びていけるようなやり方を援助していくのが大事なんじゃないかと思います。発電したり、ガス化装置をつくるには、結構お金がかかったり、技術的にも色々難しい面がありますから。

 

「木質バイオマス発電の現状と課題」

 1996年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第二次報告を出したのですが、そこでエネルギーシナリオというのをつくっています。地球温暖化を防止しながら、これから人類のエネルギーをどうやってまかなっていくか。二つ、基本的なシナリオがある。一つは、バイオマス促進ケースというのと、もう一つが原子力促進ケース。原子力促進ケースというのは、原子力を今の10倍にするという前提でやっているんですね。バイオマス促進ケースの方は、原子力はこれ以上もう増やさない。そしてできるだけ化石燃料を減らしていきましょう、ということになるんですが。

 これで見てみますと、これから一番伸びていくというのは、バイオマスになっている。つまり可能性としては。1990年から2100年までの間に、石炭が減り、石油が減り、そして天然ガスが減る。このバイオマスを何に使うかというと、初めの頃は電気が多い。その次は、バイオマスからメタノールにするわけです。そのメタノールを改質して燃料電池の水素に使う。あるいは、メタノールをそのまま車に積み込んで走るということになると、ちょうどバイオマスから採れたメタノールが、今のガソリンと同じ役割を果たすことになるんです。この大体、天然ガスがたくさん出てくるというのが、21世紀の半ば頃まで。そうすると今度はバイオマスからエネルギー、メタノールがガソリンの役割を果たすだろうと。これは1世紀の、相当先の話になるんですけれども。

 その次に紹介しますのは、EUの自然エネルギー共同計画というのがあるんです。これは、2010年までに、自然エネルギーのシェアを6%から12%に倍増させるというわけです。2010年まであと10年しか残されてないんですが。石油にしたら2000万トン分自然エネルギーで賄う。この2000万トンを何で減らすかというと、太陽電池と風力発電と、バイオマスのコジェネレーション。これでやろうというのですけれども、これで見ますと、節約するエネルギー量の約8割がバイオマスで賄われている。そうすると、ヨーロッパの場合、これから10年の間に、京都議定書に従ってCO2を減らすとなったら、何かこうしたことを行う必要があるわけですが、その時、代替エネルギーとして重要視されているのが、実はこのバイオマスなんです。

 そしてここに投資額というのがあります。この石油1トン減らすのに、いくらかかるのか。その投資額がいくらかかるかと言いますと、太陽エネルギーは84万円かかる。風力だったら、今風力もっと安くなっていると思うんですけれども、大体40万円ぐらい。それに対してバイオマスだったら、4万円ぐらいですむという勘定になっているんですね。 だったら、一番今手っ取り早い代替エネルギーが、実はバイオマスなんです。おそらく長期的には僕は太陽電池であるとか風力だと思う。ただ、それは非常に投資額が大きいものですから、一発で伸ばすわけにいかない。徐々におそらく伸びていくと思うんですけれども、ここ10年というふうに見ていくと、やはりバイオマスが一番やりやすい自然エネルギーだということになります。

  その次に紹介しますのは、アメリカのエネルギー3倍計画。実は、バイオマス発電では、アメリカは先進国です。アメリカで1978年に制定された公益事業規制政策法というのは、実は電力買取法なんです。今、日本でも超党派の議員がこれと同じようなシステムを入れようとしています。

 今、実際にバイオマスで発電している製材工場というと、岡山県の銘建工業という木材加工企業が、約2000kWの発電をしている。しかし、自社工場で利用するのは1000kWぐらい。だから、1000kWが遊んでいるわけです。その1000kWを中国電力に買ってくれと言うと、中国電力は、昼間は1kW3円以下だったら買う、夜は要らないと。僕らが今買っている電力は、kWあたり25円です。だから、とてもじゃないけれども、お話にならないわけです。

 で、1978年にアメリカでは、公益事業規制政策法という電力買取法ができたわけです。78年ですから、もう20年以上前です。その法律では、バイオマスで発電したら、電力会社が発電するそのコストでの買い取りを義務づけた。その時にアメリカでは、バイオマス、木材の木屑をつかった発電所がたくさんできた。その後、化石燃料の価格が落ちて、だんだん停滞していく。しかし少なくとも、1991年までに900万kWと言いますから、大型原子力発電所9基ぐらいのバイオマス発電所ができた。

  そして1999年8月に、クリントン大統領が、バイオマスエネルギー、バイオマス製品を3倍にするという大統領令を出した。それは何を狙っているかというと、農山村の新たな雇用と所得をつくる。それから石油の海外依存から脱却する。それからバイオマスエネルギーの変換技術を開発して、開発途上国援助に向ける。それから、地球温暖化防止につながる。

  ごぞんじのようにアメリカというのは、地球温暖化防止について非常に消極的なんです。けれども、今見えているのは、バイオマスなどを代替エネルギーの柱にして、それで石油の輸入量を減らすということです。

 それが、どういう新しい政策を打ち出すのか、まだ出たばかりですが、今年当たり、そのアメリカの新しい政策が公表されると思うんですね。どういった手だてで3倍にするのか。非常に興味のあるところです。

 次に、実際にバイオマスでやって、比較的よくやっているというのでよく例に出されるのが、スウェーデンです。スウェーデンの木質燃料蔵積所というのですが、山から木材を切ってくる。建築材や、家具材など。その時に必ず、枝や木の端など捨てる物が出てくる。それを山から持ってきてエネルギーに使っている。木質燃料の流通量というのは、猛烈な勢いで増えている。

 なぜこんなに増えているのか。一つの鍵というのは、1990年代初めに、スウェーデンが化石燃料に炭素税をかけた。この炭素税というのが結構高くて、トン当たりにしたら、日本円にして2万円ぐらいになった。これで全く、状況が変わってきた。コストが変化して下がってきた。

 山から木屑を集めるのに、かなりコストがかかる。それだけでやったら、とてもじゃないけれども合わない。スウェーデンがなぜ成功したかというと、山で木を切ると、生産物が三つに分かれる。一つは、一番いいところで、製材所に建築用材として行く。それから細い二番目はパルプ工場へいく。三つ目はどこへも使いようがない、これが燃料になる。そういう燃料になるものというのが、山にたまるわけですけれども、それをチップにして、エネルギーにしている。そういうふうに、建築材やパルプ用の生産と燃料用のチップの生産が、うまいぐあいにコンバインしたんです。

  それで、だんだん、学習効果と言いますか、初めは随分コストが高く350ぐらいだったのが年々下がって、1/3ぐらいになった。1/3になっても、もし炭素税がなかったら、石炭が一番安いんです。メガワットあたりで。それが、炭素税のおかげで、炭素税がかからない木質燃料が一番安くなっている。よく言われるんですが、スウェーデンは、炭素税をかけて二酸化炭素の削減に成功した。その二酸化炭素がどこで減ったかというと、地域暖房です。今まで石炭や原油を使っていたのを、木材を使うようになった。それで二酸化炭素の排出量が減った。

 去年スウェーデンに行って来たんですが、木を切るのにプロセッサーという機械を使うわけです。立っている木をアームではさんで、切り倒す。切って、横にして、機械が枝をしごく。オペレーターは外に出ないで、機械が全部する。しごかれた枝などが、燃料になる。

 これは、しばらく林道ばたなど山に積んでおかれ、チッパーという機械がチップにする。そして山から下ろして、貯めておくヤードがある。そういった形で、一つのところに集まってくる。それが今度は、それぞれの自治体、スウェーデンの場合だと、エネルギーの供給に責任を持っている地方自治体に、自治体の持っている発電所に、このチップが行くわけです。

  スウェーデン南部のベクショーという町に、非常に大きな発電所があって、その町の熱利用を賄っています。これを発電のロールスロイスだという人もいるそうなんですが。今までは原油を焚いていたけれども、それをだんだん、バイオマスに切り替えて、今は90%がバイオマスだけで賄っている。

 これは余談ですが、ストックホルムのそばの空港、あのあたりの電気も、近くにあるバイオマスの発電所から来ている。あの発電所も随分きれいな発電所で、一度ごらんになったらいいと思うんですけれども。

  そういうことをして、ベクショーというところは、ゼロエミッションを宣言した。石油を使わないということです。

  最後に、日本でも森林は毎年成長しているけれど、実際に伐採しているのは、その1/3ぐらい。間伐しなければいかんと政府が言っているけれども、出口がない。それを何とか使い道を見つけ出したい。それから、日本の杉や檜が非常に苦戦している。なぜかというと、ちゃんと乾燥していない。外国から入ってくるのは、乾燥させている。

  悪いことに、杉という木は、乾燥がすごく難しい。今一番できることは、木屑でエネルギーを自分のところでつくって、そのエネルギーで乾燥させるように。そういうしくみづくりが大事です。

  山からは色々なものが出てくる。一番いいものは、建築材に、一番悪いものはエネルギーに。そのエネルギーで質の悪い木材を加工して、出荷する。そういうものが必要ではないか。

  今、力を注いでいるのが、日本でどういう発電を入れたらいいか、というのを研究している。ちょうどそれが開発途上です。今、エネルギーが非常に面白い時期なんです。つまり、発電する側でもマイクロタービンというのが出てきました。それから、もう少し先を見ましたら、燃料電池も出てくる可能性がある。そういうのが出てくると、発電効率が上がっていくわけです。

 今までのバイオマス発電は、蒸気タービンだった。蒸気タービンで効率を上げようと思ったら、100万kWぐらい、とても大型の火力発電所です。それぐらいの規模だと、35%の発電効率が実現できる。それを比較的小さな規模でやっているので、アメリカでも発電効率が20%程度しかない。それが、今度ガスタービンが入ってきて、天然ガスを使うようになる。そしてコンバインドサイクルになって、もう50%ぐらいの発電効率というのは、日本でも実現しているわけです。

 今、バイオマスでしのぎを削っているのが、ここのガスタービンに相当するような小さな規模で、高い発電効率を上げようと。それで、今の先進的な技術を使ったら、40%ぐらいまで、上がりそうだということです。

  もし、燃料電池が出てくると、比較的小さな規模でも50%を越える発電効率が期待できる。それに、発電の他にコジェネレーションをするわけですから、熱も利用する。そうすると、この木材の持っている4,500kcalの8割以上が利用できるという格好になるわけです。ちょうど、今はそういった技術革新の最中なわけです。それからまた、最近、出てきているのが、スターリンエンジン、内燃機関なんですが、あれが非常に性能がよくなりました。バイオマスはあれを使うと非常に効率がよいという話も聞きました。

  今、ちょうどそうした技術開発の最中で、そこで日本での発電を考えたら、何万kWという発電は無理なんですね。せいぜい1万か1万5千以下。多いのは、2千か3千kWになるんですけれども、それで発電効率を上げながらやるには、どれがいいか。その選択を今、やっている。これは、できるだけそういうプラント一つ入れて、化石燃料がなくても、バイオマスがあったら十分、エネルギーは賄えるというのを、日本のみなさんに見せなければならない。こうして、話しているだけではだめなんです。それをなんとか早く、日本でデモストレーション用のプラントを入れたいと考えています。

                                              <以上>