ポエマ計画


通常、「バイオマス」という言葉は、エネルギーとして使われますが、バイオマス(物資源)は、素材、工業原料として利用することも可能です。プラスチックやグラスファイバーの代替として、自動車部品やスポンジ、苗木ポットなどへの利用が進んでいます。プラスチックはリサイクルが難しく、焼却する際にも注意しないとダイオキシン発生の原因となることがあります。植物繊維や貝殻、米ぬかなどのバイオマスなら、土に埋めればやがて分解され、生態系に大きな負荷をかけずに廃棄できます。
 ここでは、そうしたバイオマス資源を使った事例について紹介します。

 ブラジルでの経験で、植物繊維が自動車部品に使えることを知った自動車メーカーは、次々に色々な繊維が使えないか研究を進めました。ドイツで栽培される亜麻(麻の一種)や、大麻、麦わらなども内装材や外装材に使えることがわかり、色々な車種に導入するようになりました。他の自動車メーカーにもこの動きは広がっています。


農業廃棄物の加工で一石三鳥:ポエマ計画
 アマゾンの熱帯林の破壊が進んでいる1990年代初め、ブラジルとドイツで一つの試みが始まりました。ポエマ計画(アマゾン貧困撲滅環境計画)と呼ばれるこのプロジェクトで、アマゾンの森林を焼いて切り開いた畑に、モノカルチャー(単一栽培)を行っていたある村は、アグロフォレストリーと呼ばれる、いくつもの種類の樹木や作物を一緒に植える農法に切り替えました。アグロフォレストリーの畑は、天然の熱帯林と同じ構造になっていて、肥料をやらなくても土壌は豊かで、害虫が大量発生することもなく、作物がよく育ちます。面積あたりの収穫量も大幅に増えました。
 ポエマ計画を始めたのは、アマゾン河口のベレン市にある国立パラ大学です。ポエマ計画では、自治体や国の機関、国際機関や企業などさまざまな組織と協力して、熱帯林を破壊せずに農村で食べていけるようにするために活動しています。
 さらに、村にある資源で何かできないかを考えたとき、それまで果肉を採った後捨てられていたココナッツ繊維で、村人たちが自動車部品をつくるというアイデアが出てきました。関係者の人的ネットワークで、ドイツに本社がある自動車メーカーが協力することになり、植物繊維や染料などアマゾンの資源を自動車部品などに使う研究が行われ、実用化に成功しました。現在、この自動車メーカーがブラジルで製造している車両の内装材の9割(面積比)に、植物繊維などの自然素材が使われています。 ポエマ計画によって、この村では出稼ぎしなくても生活できるようになり、農民の収入も増えました。熱帯林は焼かれなくなり、荒れていた農地はアグロフォレストリーの森として再生しています。さらに自動車メーカーは、従来よりコストが低くて機能的にすぐれた部品を手に入れることができました。
 ポエマ計画はこの村の他にも、食品加工や魚の養殖、紙すきなど、地域の資源を活かす事業に取り組んでいます。